会社を経営していく上で、経営資源である資金は非常に大切です。
社長であれば、法律に従った上で、できるだけ会社にお金を残したいと考えるはずです。
そのため、節税対策は会社経営において切っても切れない重要なテーマのひとつです。
このページでは、中小企業でよく活用される節税対策を、メリット・デメリットとともに紹介します。
やり方を間違えると効果が出ない(否認)ケースもあります。実行前に専門家へご相談ください。
目次
賃上げ促進税制(中小向け)
中小企業が前期より給与等支給額を増やした場合、増加額の一定割合を**法人税から税額控除**できます(上限あり)。
- 控除率(本則):前期比+1.5%以上=15%、前期比+2.5%以上=30%
- 上乗せ(加算):教育訓練費の拡充(+10%)/くるみん等・えるぼし(2段階目以上)(+5%) ⇒ 最大45%
- 限度:当期法人税額の20%が上限(中小は未控除額を5年間繰越可)
よくある落とし穴:給与に充てる助成金等は増加額から控除/上乗せの認定は取得時期・段階で可否が異なります。
参考(国税庁): 令和6年度 法人税改正の概要(賃上げ促進税制の見直し) / 租税特別措置の適用額明細書
詳しくは賃上げ促進税制(中小向け)を参照ください。
事前確定届出給与(役員賞与の損金算入)
支給日・金額等を事前に確定し、期限内に届出のうえ、届出どおり支給すれば損金算入できます(1円・1日ズレても原則否認)。
- 届出期限(早い方):①決議(または職務開始)から1か月以内、②期首から4か月以内(通算法人の特例あり)
- 新設法人:設立日後2か月以内
- 臨時改定/業績悪化改定:1か月以内に変更届
必要書類:議事録(対象者・支給日・金額)/届出書(様式C1-23)/必要時変更届(様式C1-24)
参考(国税庁): タックスアンサー No.5211(役員に対する給与) / 様式C1-23(事前確定届出給与に関する届出) / 様式C1-24(変更届出) / Q&A:定めどおりに支給されたかの判定
詳しくは事前確定届出給与(役員賞与の損金算入)を参照ください。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)の活用
取引先事業者が倒産した際に、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度です。
掛金月額は、5,000円から20万円までの範囲(5,000 円単位)で自由に選択でき、掛金総額が800万円に達するまで積み立てることができます。
取引先の事業者が倒産し、売掛金などの回収が困難になったときは、その事業者との取引の確認が済み次第、すぐに借り入れることができます。無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れができます。
メリット
払い込んだ掛金は税法上最大で年間240万円を、損金に算入できます。また、1年以内の前納掛金も払い込んだ期の損金に算入できます。前納の期間が1年を超えるものは、各事業年度末(決算期)において、期間の経過に応じて、損金の額に算入できます。
デメリット
共済契約解約をする場合、加入後40か月未満の場合には解約手当金が満額戻ってきません。
積立金には利息が付きません。
解約手当金が戻ってきた時には収益として計上します。
加入について
継続して1年以上事業を行っている中小企業者であること。
加入資格は、業種等によって異なります。
経営セーフティ共済への加入手続きは、中小機構と業務委託契約を結んでいる団体(委託団体)または金融機関の窓口で行ってください。
対応できるネット銀行がない信金等の口座が必要
信金等で加入する場合には口座開設から1年以上経過していること
詳細は制度の概要|経営セーフティ共済(中小機構) (smrj.go.jp)よりご確認ください。
小規模企業共済の活用
小規模企業の経営者や役員が、廃業や退職時の生活資金などのために積み立てる制度です。
事業資金の借入れもできる小規模企業の経営者のための「退職金制度」です
メリット
月々の掛金は1,000~70,000円まで500円単位で自由に設定が可能で、加入後も増額・減額できます。確定申告の際は、その全額を小規模企業共済等掛金控除として課税対象所得から控除できるため、高い節税効果があります。また、1年以内の前納掛金も同様に控除できます。
※注:事業上の損金には算入できません。
共済金は、退職・廃業時に受け取り可能で満期や満額はありません。共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」が可能です。一括受取りは退職所得、分割受取りは公的年金等の雑所得扱いとなり、税制メリットもあります。
デメリット
掛金納付月数が6か月未満の場合は、共済金はお受け取りいただけません。
12か月未満の場合は、準共済金、解約手当金はお受け取りいただけません。
加入期間が240か月以上でも、解約手当金が掛金合計額を下回る場合があります。
※注:共済契約者が死亡したことにより支給される共済金は、みなし相続財産として相続税の申告が必要です。
加入について
加入対象は、個人事業主または会社等の役員、企業組合の役員協業組合の役員ですが、業種により加入資格条件が異なります。
小規模企業共済への加入手続きは、中小機構が業務委託契約を結んでいる団体または金融機関の窓口で行ってください。郵送による書類の提出は受け付けておりません。
なお、ゆうちょ銀行、農業協同組合の一部、労働金庫、新生銀行、あおぞら銀行、外資系銀行、インターネット専業銀行等は、小規模企業共済をお取扱いしておりませんので、ご注意ください。
詳細は加入をご検討の方|小規模企業共済(中小機構) (smrj.go.jp)よりご確認ください。
生命保険の活用
メリット
法人が契約者となり、役員または使用人を被保険者とする定期保険または第三分野保険(相当多額の前払部分の保険料が含まれるものを除きます。)に加入して支払った保険料の額は、原則として、期間の経過に応じて損金算入します。
法人保険に「年金払特約」を付加すると、本来ならば一括で給付される保険金が、数年に分けて年金形式で給付されます。そうすることで、当該事業年度の益金算入額を平準化でき、税負担の平準化が可能です。受取った保険金に対して課税されるという事実が変わるわけではありませんが、1年度あたりの法人税負担を軽くできる効果があります。
短期前払費用の詳細は短期前払費用まとめにて確認ください。
デメリット
法人保険の保険金や満期保険金、解約返戻金は、法人税の課税対象になります。そのため法人保険への加入を検討するにあたっては、保険金等受取時の税金の取扱いについても理解しておく必要があります。
役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合には、その保険料の額はその役員または使用人に対する給与となります。
参考(国税庁):
タックスアンサー No.5364(定期・第三分野の保険料) /
No.5364-2(資産計上・取崩の取扱い)
自宅を社宅として使用(従業員の家を借上げ社宅とする場合でも利用可能)
社宅にしようとする住宅を会社名義で借り上げ、社宅化ができます。これには社宅規程などのルール整備が必要です。また、家賃の一部を入居する役員・従業員が負担しなければなりません。その金額は国税庁が定める方法で算出します。
No.2600 役員に社宅などを貸したとき|国税庁 (nta.go.jp)
No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁 (nta.go.jp)
メリット
社宅化によって住宅の家賃(実質会社負担分)を法人の経費に算入できます。
会社負担家賃分を給与から減額すれば、所得税・住民税・社会保険料の節税ができ、かつ福利厚生を充実させることができます。
資金に余裕がある場合には不動産を購入して社宅化するのも一つの手です。
中古物件であればより短期間で減価償却が可能で、物件に掛かる固定資産税や借入利息なども経費にすることができます。
社長の自宅を社宅化すれば、自宅にかかる費用を会社の必要経費(建物減価償却費・固定資産税・火災保険・住宅購入借入金利子等)とすることが可能になります。
デメリット
社宅規定を整え、役員や従業員から徴収する賃借料の額を定めておかなければ、給与認定になりかねません。
不動産を購入して社宅化するには、かなりの資金流出が伴います。また、仮にその社宅に住まなくなり売却した際には、売却益または売却損が発生することとなり、トータルどのくらい有利だったのか見えづらくなります。
車両を会社で保有する
メリット
法人として車を購入すると、その購入金額や付随する費用を経費化できます。税金や保険料などの定期的に発生する維持費についても損金算入が認められています。ローンで購入した場合、借入利息も経費として計上できます。
節税目的で購入するのであれば、4年落ち以上の中古車を選ぶのが効果的です。4年落ちの法定耐用年数は2年となり、事業年度の初月などに取得すると取得価額の全額をその年に経費計上できます。
簡便法による耐用年数の算出方法
中古資産を取得して事業の用に供した場合には、見積もられる年数によることができます。
見積りが困難であるときは、簡便法により算定した年数によることができます。
- 法定耐用年数の全部を経過した資産
その耐用年数の20%に相当する年数
- 法定耐用年数の一部を経過した資産
その耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数
なお、これらの計算により算出した年数に、1年未満の端数がある時は、その端数を切り捨て、その年数が2年に満たない場合には2年とします。
No.5404 中古資産の耐用年数|国税庁 (nta.go.jp)
具体的計算方法
一般用車両(法定耐用年数6年)の簡便法による耐用年数と償却率は以下のようになります。
新車(耐用年数6年) 償却率 0.333
3年落ち中古(耐用年数3年) 償却率 0.667
4年落ち中古(耐用年数2年) 償却率 1.000
5年落ち中古(耐用年数2年) 償却率 1.000
4年落ち中古車両の定率法償却率は1.000つまり100%となり1年で全額償却でき、効率よく節税できることとなります。
但し、100%経費にできるとはいえ月割計算です。事業年度における事業の用に供した期間が1か月であれば償却額が1/12になりますのでお気を付けください。
デメリット
車に関連する維持費はトータルでみると大きな金額となります。キャッシュフローに影響を与えるような場合は注意が必要です。
必要経費と認められるには、会社の事業で使用していることが必要です。事業で使用していると認められなければ必要経費として認められません。
参考(国税庁):
No.2100 減価償却のあらまし /
耐用年数表(PDF)
出張手当の活用
出張がある会社であれば、出張に対して、出張手当(出張日当)を支給することができます。出張旅費規程を定め、その範囲内で一般的に合理的と認められる金額について経費計上することができます。受け取った役員や従業員も給与として課税されることはありません。日帰り出張の場合でも支給することができます。
メリット
出張にあたっての旅費・宿泊代・食事代等のこまごまとした費用を、まとめて会社の業務のために支出される経費として計上することができます。
国内出張のために支給された出張旅費、宿泊費、日当については、通常必要と認められる部分の金額が課税仕入れとなり消費税の節税にもなります。ただし、海外出張については課税仕入れとはなりません。
No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い|国税庁 (nta.go.jp)
出張手当を支給することで、従業員の手取りを増やせますが給与扱いとはならない為、給与の額を基準に算定される社会保険料もかかりません。
デメリット
出張報告書や出張旅費精算書等を残し、実際に出張に行ったという記録を残しておかないと、必要経費と認められない可能性があります。